
2026年7月29日に、Believe、BMG、Concord、Dirty Hit、Glassnote Records、HYBE Corp.、Mom+Pop Music、Partisan Records、Sony Music、Universal Music Group、Warner Music Groupなどの主要音楽企業は、生成AIを利用して制作された楽曲が公式音楽チャートに掲載されるための新たな原則を提案しました。
生成AI楽曲が公式音楽チャートに掲載されるための新ルール
AIを使った楽曲すべてを否定するものではない
今回の主要音楽企業の提案した基準は「AIを使った音楽は禁止する」ということでもなければ「AI技術そのものを否定する」ことでもありません。
問題となっているのは、アーティストの許可なく楽曲を学習したAIモデルや、AIを利用して大量に作られた楽曲が、不正な方法で再生数を伸ばし、公式チャートの上位に入り込むことです。
もし、そのような楽曲が人間のアーティストが時間をかけて制作した作品と同じように評価されれば、音楽チャートの信頼性は失われます。
そして、正当な創作活動を続けるアーティストの努力や権利が守られなくなります。
今回の原則案は、こうした事態を防ぐための重要な取り組みです。
権利侵害をして作られたAI作品がNG
人間のクリエイターが主体となり、正規のAIサービスを補助的なツールとして活用することは、これからの音楽制作における新しい可能性の一つです。
一方で、誰が作ったのか分からないAI生成楽曲や、権利を侵害して作られたAI作品が、実際の人気や支持を得た作品として扱われることは認められないという考え方です。
チャート掲載の厳しい条件
提案されたガイドラインでは、生成AIを利用して制作された作品が公式チャートに掲載されるためには、以下の条件を満たす必要があります。
1.利用するAIサービスが合法的で認可されたものであること
楽曲制作に使用した生成AIサービスは、適切な権利処理が行われた合法的なものでなければなりません。
アーティストの作品を無断で学習したAIモデルなどを利用した楽曲は、音楽クリエイターの権利を侵害する重大な問題につながります。
学習データの利用を巡って訴訟が続いている生成AIサービスなど、権利処理が確認できないAIツールを使用した楽曲は、公式チャート掲載の対象外となります。
2.人間による創作が中心であること
楽曲の主要な創作部分は、人間のアーティストやクリエイターによって行われている必要があります。
AIが自動的に大量生成した作品を、人間が制作した楽曲と同じ基準で競わせることは、音楽市場の公平性を損ないます。
3.不正な再生数操作やチャート操作を行っていないこと
生成AIを利用すれば、短時間で大量の楽曲を制作できます。
そのため、組織的にストリーミング数を増やしたり、チャート順位を操作したりする行為への警戒が強まっています。
不正な方法で作られた楽曲がランキング上位を占めれば、本当に音楽を支持しているリスナーの評価が反映されなくなります。
著作権や表示義務も重要な基準に
リスナーに正しい情報を届ける
今回の原則では、以下の点も求められています。
・使用したAIサービスの利用規約に違反しないこと
・AIを利用したことを、ストリーミングサービスなどで適切に表示すること
AIを使った事実を隠し、あたかも人間だけが制作した作品であるかのように公開することは、リスナーの判断を誤らせる行為になります。
「AI生成」と「AI補助」を明確に区別
音楽業界では、生成AIを利用した楽曲について、ファンに分かりやすく情報を伝えるためのラベル表示も進められています。
ここで重要になるのが「AI生成」と「AI補助」の違いです。
「AI生成」は、楽曲の中心部分がAIによって作られた作品を指します。
一方、「AI補助」は、人間のアーティストが主体となって制作し、その過程でAIを補助的なツールとして利用するケースです。
この違いを明確にすることで、リスナーは作品がどのような過程で生まれたのかを正しく理解することができます。
人間の創造性と音楽市場の公平性を守るための防波堤
音楽チャートは、単なる数字のランキングではなく、アーティストが積み重ねた創作活動や、ファンが作品に寄せた支持を反映する重要な指標です。
もし、不正に作られたAI楽曲や、権利を侵害して制作された作品がランキングを占めるようになれば、チャートそのものへの信頼が失われます。
今回の原則案は、生成AI時代においても、人間の創造性と音楽市場の公平性を守るための防波堤となるものです。
背景にはSuno問題
名指しは避けられているが背景にはSunoを巡る問題
今回発表された原則では、特定のAIサービス名は挙げられていませんが、音楽業界で大きな議論となっているのが、生成AI音楽サービス「Suno」を巡る問題です。
Sunoは、テキストによる指示から楽曲を生成できるAIサービスとして急速に利用者を増やしています。
一方で、生成AIモデルの学習過程について、既存アーティストの楽曲や音源が許可なく利用されたのではないかという批判が出ており、生成AIと著作権を巡る議論の中心的な存在となっています。
音楽業界が今回示した「適切に認可されたAIサービスを利用すること」「人間による創作を中心とすること」「権利を侵害する作品をチャート評価の対象にしないこと」という条件は、こうした問題を背景にしたものと考えられます。
Sunoと提携関係を結んでいるワーナーが含まれている
特に注目すべき点は、今回の原則案に、Sunoと提携関係を結んでいるWarner Music Groupが名を連ねていることです。
一見すると、生成AIサービスとの提携を進める企業が、AI生成楽曲に厳格な条件を求める原則に参加することは矛盾しているようにも見えます。
しかし、音楽業界の大手企業が目指しているのは、生成AIを無条件に受け入れることではありません。
むしろ、AI技術を音楽業界の既存ルールの下に置き、権利処理や透明性、人間による創作性を満たさないAI生成楽曲が公式市場へ流入することを防ぐことにあります。
つまり、ワーナーのSunoとの提携は、Sunoを全面的に支持するという意味ではなく、生成AIサービスを業界の管理可能な枠組みに取り込み、一定の基準に従わせるための交渉でもあります。
今回の原則案は、「AIを禁止する」というものではなく「音楽産業が認めるAI利用には明確な条件がある」という線引きを示したものです。
その意味で、AI企業に市場参入への道を開く一方で、従来の音楽産業のルールから逸脱する生成AI楽曲については、チャートや商業流通の場から排除する姿勢を明確にしたものと捉えることもできます。
昨年、提携のニュースはありましたが、その後、何の進展もなく、重要なオプトインに賛同したアーティスト情報もありません。
ワーナーはSunoの「味方」になったわけではなく「Sunoを業界のルールに従わせるための手綱を握った」に過ぎないという見方をする人が出てきているのも不思議ではありません。
Sunoのワーナーとの提携は「将来的な合法化に向けた一歩」に過ぎず、全社的な訴訟解決と「人間がどれだけ関与したか」の証明という条件をクリアしない限り、Sunoで作成した楽曲が公式チャートに載ることはありません。
ソニー & UMG VS Sunoの裁判は2027年4月に延期になりましたので、解決はまだまだ先のようです。
外堀を完全に埋めた状態
グレーゾーン的な解釈を訪問者に与えてしまっても意味がないため、最後に音楽業界の本音の部分について触れておきます。
表向きは「AIとの共存」や「新しい技術のルール作り」と表現されていますが、実態としては主要レーベル・団体が手を取り合って敷いた鉄壁の包囲網と言えます。
1.「技術そのもの」ではなく「出口(市場)」を叩く
AIの生成技術自体を止めるのは難しくても、音楽ビジネスの心臓部である「公式チャート」「ストリーミングプラットフォームの公式プレイリスト」「収益化枠」という出口を塞ぐことで、違法・野良AI楽曲の商業的価値をゼロにできます。
2.「合法的パートナー」にしか道を残さない
今回「業界の軍門に降ったAIサービスしかビジネスにさせない」という構造を作り上げました。
Sunoであったり契約していないAIサービスは、メジャーレーベルやGEMAやJASRACのような著作権管理団体と和解・提携しない限り、市場から孤立することになります。
3.「プロンプトを打つだけ」のユーザーを一括排除
現在ではAIスロップと呼ばれる「AIで一発生成してヒットさせて一獲千金」を狙うスパム投稿者や一般ユーザーに対し、「人間主導のクリエイティビティ(証明が必要)」という高いハードルを課すことで、AI楽曲の乱造による市場の汚染をシャットアウトしています。

生成AIは、音楽制作の可能性を広げる大きな技術です。新しい表現方法を生み出したり、制作を支援したりする力があります。
しかし一方で、アーティストの権利を守る仕組みがなければ、長年積み重ねられてきた音楽文化や創作者の価値が損なわれる可能性もあります。
今回の原則案は、AIを排除するためのものではなく、人間のクリエイターが安心して活動できる環境を作るための取り組みと言えます。
今後、世界各国のチャート運営団体や音楽関連団体がこの基準をどのように取り入れていくのか注目されます。
AI時代の音楽業界では、「技術の進化」と「人間の創造性を守る仕組み」の両立が、ますます重要になっていきそうです。


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