
2026年8月18日、生成AIサービス「Suno AI」をめぐる著作権訴訟で、ソニー・ミュージックエンタテインメントと、ユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)による訴えの変更について、裁判所が相次いで判断を示しました。
6万1,026作品の追加は、裁判の複雑化・長期化を理由に認められなかった一方、YouTubeからの音源取得をめぐるDMCA違反の主張は追加が認められています。
今回の判断で、AI学習における著作権侵害だけでなく、技術的保護手段の回避をめぐる新たな争点も浮上しました。
Suno AI訴訟、6万1,026作品の追加を裁判所が認めず
生成AIサービス「Suno AI」を運営するSuno Inc.をめぐる著作権訴訟で、原告側のソニーとUMGの新たに6万1,026作品を訴訟対象に追加しようとした申立てについて、裁判所が判断を示しました。
セイラー判事は、原告側の「第2次訴え変更の申立て(Second Motion to Amend)」をwithout prejudice(今回の申立ては認めないが、同じ請求を将来あらためて行うことを妨げない)で認めないとしました。
第2次訴え変更の申立ての背景
原告側は、ソニー・ミュージックエンタテインメントとユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)で、被告側は、生成AIサービス「Suno AI」を運営するSuno Inc.です。
本件の主な争点は、SunoがAIモデルの訓練のために著作権者の許可なく音源をコピーしたことが、著作権侵害に当たるかどうかです。
当初の訴状では、侵害されたとする録音物として560作品が「例示的なもの」として挙げられていました。
その後、原告側のソニーとUMGは証拠開示(ディスカバリー)の過程で、さらに多数の音源を特定。新たに61,026作品を訴訟に追加するため、第2次の訴え変更申立てを行っていました。

裁判所が追加を認めなかった理由
セイラー判事が重視したのは、裁判の複雑化と不当な遅延です。
すでに事実審理(ファクト・ディスカバリー)の期限が迫っている段階で、6万点を超える作品を一度に追加すれば、現在の訴訟が極端に複雑になり、裁判の終結が大幅に遅れる可能性があると判断しました。
Suno側への不利益も考慮
裁判所は、被告であるSuno側への不利益についても指摘しています。
本件の重要な争点の一つであるフェアユース(公正利用)の成否について、6万1,026作品をこの段階で追加すると審理が大幅に複雑化し、Suno側が裁判所の判断を受けるまでの期間が長引くことになります。
そのため、裁判所は今回の追加を認めない判断をしました。
「without prejudice」の意味
今回の申立ては、単純に「却下」されたというより、「without prejudice(今回の申立ては認めないが、同じ請求を将来あらためて行うことを妨げない)」で認められなかった点が重要です。
これは、今回の訴訟への追加は認めないものの、61,026作品について原告側が将来的に別の形で請求することまで禁止したわけではないという意味です。
つまり、裁判所は6万1,026作品について「著作権侵害ではない」と判断したわけではなく、現在の訴訟にこの段階で追加することが適切ではないと判断したものです。
今後の選択肢
裁判所は、原告側(ソニーとユニバーサル・ミュージック)が6万1,026作品について別の訴訟として新たに提起する方法を示しています。
別訴として提起した場合、関連事件として同じ裁判所で扱われ、必要に応じて「ディスカバリーのスケジュールを調整する」「一方の事件を一時停止する」「将来的に事件を併合する」といった対応を取ることが可能になります。
そのため、今回の判断は、ソニーとユニバーサル・ミュージックによる6万1,026作品についての請求そのものを終わらせるものではありません。
しかし、ソニー側はその直後に却下された楽曲群をベースにして「2件目の独立した訴訟」を新たに提起という強硬なステップを踏んでいます。
Sunoについても、今回の判事が示した「別訴として起こすことは妨げない(without prejudice)」という判断を踏まえれば、ソニーやUMGがUdioと同様に第二次訴訟を次々と乱れ撃ちしてくるリスクが非常に高い状態です。
今回の判断を一言でまとめると、「今の段階で6万1,026作品をこの裁判にまとめて追加すると、審理が過度に複雑化・長期化し、Sunoにとっても不利益となるため認めない。追加するのであれば、別の訴訟として扱う方法が考えられる」というものです。
重要なのは、Sunoが6万1,026作品について著作権侵害をしていないと裁判所が判断したわけではないという点です。
今回の判断はあくまで、これらの作品を現在の訴訟に追加することを認めないという手続き上の判断です。
DMCA違反をめぐる新たな主張の追加を裁判所が認める
6万超曲の追加は却下されましたが、2026年8月18日、原告側(ソニーとユニバーサル・ミュージック)によるDMCA違反をめぐる新たな主張の追加に関しては裁判所が訴えの変更を認める判断を示しました。
SunoがYouTubeから音源を取得する際に技術的な保護手段を回避したことが、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)第1201条に違反するという新たな主張を追加するということです。
YouTubeからの音源取得をめぐる問題
証拠開示(ディスカバリー)の過程で、Suno社がAIの学習に使用するデータを集めるため、YouTubeから音声ファイルをダウンロードしていたことが明らかになりました。
その際、Suno社はYT-DLやYT-DLPといったオープンソースのソフトウェアツールを使用していたとされています。
原告側は、これらのツールによって、YouTubeが動画や音声のダウンロードを防ぐために設けている技術的な仕組みを回避していたと主張しました。
原告側がDMCA違反を主張
原告側は、SunoがYouTubeの技術的保護手段を回避して音源を取得した行為について、DMCA第1201条に違反すると主張。
そのため、従来の著作権侵害に関する主張に加えて、このDMCA違反に関する新たな請求を訴状に追加するよう裁判所に求めました。
原告側によると、YouTubeは「rolling cipher(ローリング・サイファー)」などの技術を利用してファイルURLを隠しており、これによって音源へのアクセスを制限しているとされています。
Sunoはその仕組みをツールによって回避し、音源を取得したというのが原告側の主張です。
これに対してSuno側は、YouTubeの技術的な仕組みはコピーを防止するためのものにすぎず、アクセスそのものを制限するものではないと反論しました。
DMCA第1201条が禁止しているのは、著作物へのアクセスを効果的に制御する技術的措置の回避です。
そのためSuno側は、YouTubeの仕組みがアクセス制御に当たらないのであれば、原告側のDMCA違反の主張は成立せず、新たな請求を追加しても意味がないと主張しました。
裁判所は原告側の追加を認める
セイラー判事は、原告側による新たなDMCA請求の追加を認めました。
裁判所は、現段階で提出されている主張について、DMCA違反の請求として成立する可能性がある(plausible)と判断しました。
そのため、最初から請求を退けるのではなく、今後の裁判手続きの中で詳しく検討することが適切だとしました。
今回の判断によって、YouTubeの「rolling cipher」が本当にDMCAでいう「アクセス・コントロール」に当たるのかという問題は、今後の審理で検討されることになります。
また、SunoがYT-DLやYT-DLPを使ってどのように技術的な仕組みを回避したのかについても、今後、証拠や技術的な検証を通じて明らかにされることになります。
今回の判断で新たな争点が加わる
今回の判断により、Sunoをめぐる訴訟では、AIの学習に著作物を使用したことの是非に加えて、「YouTubeから音源を取得する際に技術的保護手段を回避したことが、DMCA第1201条違反に当たるのか」という新たな争点が加わることになりました。
今後は、YouTubeの技術的な仕組みがアクセス・コントロールに該当するのか、そしてSunoによるその回避行為がDMCAに違反するのかが、裁判の中で検討されることになります。
一方、YouTubeからの音源取得をめぐるDMCA違反の主張は追加が認められました。今後は、SunoによるAI学習時の著作権侵害に加え、技術的保護手段の回避がDMCA違反に当たるのかも重要な争点となりそうです。
整理するとSuno側が著作権侵害の責任を免れたことを意味するものではなく、6万1,026作品については別訴による請求の可能性を残したまま、DMCA違反という新たな争点が加わったということです。

