
2026年9月15日、Universal Music Group(UMG)が、インディーズアーティスト向けの大手音楽配信サービスDistroKidを提訴しました。
UMGはデラウェア州の連邦裁判所に訴えを起こし、DistroKidがAI生成音楽や著作権侵害コンテンツを大量に配信していると主張しています。
訴状では、AIによって生成された「slop(低品質な大量生産コンテンツ)」がストリーミングサービスを埋め尽くし、正規のアーティストからリスナーや収益を奪っているとされています。
特に注目されているのが、「Lofi Chill」というアカウントです。UMGの訴状によれば、このアカウントはわずか1年間で4,562曲をリリースしていました。
UMGは、人間のミュージシャンには到底達成できないペースだと指摘しています。
さらに、UMGはDistroKidを通じて、UMG所属アーティストの楽曲を無許可でリミックスしたり、速度を変更したり、サンプリングしたりした作品が大量に配信されていると主張しています。
そんな状況でしたので「SoundOn」から「DistroKid」へ鞍替えしたSunoユーザーもいるでしょう。
しかし、予想通り「SoundOnからDistroKidへの鞍替え」は、燃え盛る車から別の車に乗り換えているだけでした。
UMGはDistroKidの何を問題視しているのか
AI生成音楽そのものが問題なのではない
今回の訴訟で重要なのは、UMGが単純に「AIで音楽を作ること」を問題にしているわけではないという点です。
UMGが問題視しているのは、AI生成音楽であることを明確に開示せず、人間のアーティストが制作した正規の作品であるかのように流通させることや、既存アーティストの楽曲を無許可で加工したコンテンツなどが大量に配信されることです。
つまり、争点の一つは「AIか人間か」という二択ではなく、権利処理と透明性にあります。
「Lofi Chill」の4,562曲という数字
今回の訴訟を象徴する具体例として、UMGは「Lofi Chill」というアカウントを挙げています。
訴状によると、このアカウントは1年間で4,562曲をリリースしていました。単純計算すると、1日あたり12曲以上というペースです。
UMGは、このような大量生産型のAI音楽がストリーミングサービスに大量投入されることで、正規アーティストの作品が埋もれ、ストリーミング収益にも影響を与えると主張しています。
AI音楽の「配信先」はすでに狭くなっていた
今回のDistroKid訴訟を理解するうえでは、AI音楽を取り巻く配信環境の変化も重要です。
SoundOnもAI音楽に厳しい姿勢
AIで作った音楽をSpotifyやApple Musicなどに配信する場合、クリエイターは配信代行サービスを利用するのが一般的です。
しかし、すべてのディストリビューターがAI生成音楽を無条件に受け入れているわけではありません。
かつては受け入れていたSoundOnについても、AI生成音楽に対して厳格な審査・制約が存在し、少なくとも無条件に配信できる環境ではなくなっています。
このため、AI音楽を積極的に制作するクリエイターにとって、利用できる配信サービスは徐々に限定される状況になっていました。
TuneCoreとSunoは提携したが「何でも配信」ではない
2026年9月、SunoはBelieveおよびTuneCoreとの戦略的パートナーシップを発表しました。
これだけを見ると「TuneCoreがSunoのAI音楽を解禁した」と考えてしまいそうですが、実際にはそう単純ではありません。
SunoとBelieveの発表では、Sunoの新しい業界パートナーモデルで生成された音楽を、BelieveおよびTuneCoreを通じて配信できる仕組みが示されています。
旧モデルのSuno作品は別扱い
非常に重要なのは、TuneCoreとSunoが提携したからといって、過去のSuno旧モデルで生成した楽曲が配信可能になったわけではありません。
現在の方向性は、音楽業界とのライセンスを組み込んだ新しいモデルによって生成された音楽を、適切な権利処理のもとで流通させるというものです。
Sunoは2026年、Warner Music GroupやBMGなど音楽業界との提携を進め、ライセンスされた音源を利用する新世代モデルへと移行しています。
これは、AI音楽について「禁止するか、自由に配信するか」という二択ではなく、ライセンスを前提にしたAI音楽流通モデルを構築しようとする動きと見ることができます。
DistroKidが「最後の砦」だった理由
AIクリエイターに残された重要な配信ルート
こうした状況を背景にすると、DistroKidの存在感が見えてきます。
SoundOnなどでAI音楽に対する制約が強まり、TuneCoreもSunoとの提携を進めながら、従来モデルのSuno作品をそのまま全面的に受け入れる方向ではありません。
その一方で、DistroKidはAIを利用した音楽の配信を求める人にとって、日本国内では重要な選択肢として残っていました。
そのため、AI音楽を作っていた人から見ると、DistroKidは「最後の砦」のような位置づけになっていたと考えることができます。
そのDistroKidをUMGが提訴
ある程度、スロップ音楽の発信地になっていたので予測はできましたが、2026年9月15日、そのDistroKidに対してUMGが訴訟を起こしました。
UMGは、DistroKidが「アーティスト自身が制作・所有する音楽を配信する」という仕組みを掲げながら、実際にはAI生成音楽や著作権侵害コンテンツが大量に流通していると主張しています。
さらに、Sunoを利用して作成されたとUMGが主張するAIトラックについても訴状で言及されています。
UMGは、具体的な著作権侵害作品を多数特定しており、少なくとも1,000曲について詳細を示しているとされています。
UMGがDistroKidに求めているもの
UMGはDistroKidに対し、著作権侵害についての法定損害賠償、侵害行為の差し止め、弁護士費用などを求めています。
法定損害賠償は、侵害された作品1曲あたり最大15万ドルとされており、UMGが指摘する1,000曲だけでも、理論上は最大1億5,000万ドルに達します。
Sunoは音楽企業とのライセンスを組み込んだモデルへ移行し、TuneCoreもその新しい仕組みと連携しました。
一方、AI音楽を配信する重要なルートの一つだったDistroKidには、UMGから「大量のAI音楽や権利侵害コンテンツを流通させている」との厳しい主張が突きつけられました。
今後、DistroKid側の反論や裁判手続きを通じて、具体的な事実関係が明らかになっていくことになります。

