
人気声優の津田健次郎さんがTikTok運営会社を相手に起こした「AIによる声の無断模倣」削除請求訴訟は、2026年7月頃に結審し、東京地裁の判決は9月30日に予定されています。
この訴訟は、生成AIによる「声の無断模倣」をめぐる日本初の司法判断とみられています。
30日の判決は、AI時代における声の利用と権利保護を考えるうえで、大きな意味を持つことになりそうです。
本訴訟における主な法的争点は、現行法において「声そのもの」に直接の著作権が認められにくいなかで、声が有する経済的価値を無断利用されたとするパブリシティ権の侵害が成り立つかという点にあります。
また、音響分析結果や視聴者の認識を踏まえ、生成されたAI音声が「津田氏本人の声」と評価できるほど酷似しており、本人の表現だと誤認・混同させる状態(不正競争防止法上の問題)を生じさせているかどうかも大きな焦点です。
さらに、投稿者不明の侵害動画に対して、プラットフォーム事業者であるTikTok側がどのような条件のもとで管理・削除義務を負うのかという点も争われています。
法的な争点やこれまでの審理を踏まえると、判決は単純な「全面勝訴・全面敗訴」に限られず、原告側の主張を一部認める判断や、プラットフォーム側の責任に焦点を当てた判断も考えられます。
そのため、裁判の結果としては、双方の主張について裁判所がそれぞれ一定の判断を示す展開も想定されます。
DTMが象徴ですが音楽業界はテクノロジーの進化を取り入れながら発展してきた業界です。AIに関しても肯定的な人も少なくありません。
しかし、それは「権利侵害がないのが前提」で、現在、企業の使っているAIは権利侵害をしていないのが大前提となっています。
一方で、Adobe「C2PA」、Google「SynthID」のようなウォーターマークなどの適切な措置を講じず、他者の権利を侵害した状態で運営されているツールや、そうした手段を意図的に利用する人に対しては、適切に対処していくべきだと思っています。
ただ、この訴訟は音楽関係外の方の注目も高く、どちらの擁護派とも対立するつもりはありませんので画像は差し替えました。不愉快な思いをした方には、お詫び申し上げます。
原告(津田氏側)が有利とみられるポイント
「客観的なデータ」と「周囲の認識」
津田氏側は、音響分析による数値データに加え、動画への視聴者の反応も証拠として示しています。
コメント欄には「ツダケンの声だ」とする反応があり、視聴者が津田氏本人の声だと受け取ったことを示す材料となっています。
今回の争点は、単に「声が似ているか」だけではありません。問題となった音声が、津田氏の声として利用・消費されたと評価できるかどうかも重要になります。
津田健次郎氏の声として利用されたと裁判所が認定すれば、パブリシティ権や不正競争防止法との関係について、踏み込んだ判断が示されることになります。
社会的な要請と行政の動き
政府や法務省も、生成AIなどによる声の利用をめぐる権利保護について議論を進めています。こうした社会的な動きは、今回の裁判を取り巻く背景の一つといえます。
もっとも、裁判所の判断は社会的な要請だけで決まるものではありません。最終的には、提出された証拠と既存の法律に基づいて判断されることになります。
被告(TikTok側)が主張すると考えられるポイント
「声の類似性」の認定基準の難しさ
被告側は、問題となった声について、一般的な男性の低音ボイスに当たると主張するとみられます。
さらに、特定の人物を模倣したものではなく、津田氏を想起させる意図もなかったと反論することが考えられます。
声には、顔写真や氏名などとは異なり、法律上の権利関係が明確に定められていない部分があります。
そのため、裁判所が「どの程度声が似ていれば権利侵害に当たるのか」「特定の人物の声だと認識されることをどのように評価するのか」といった基準をどこまで示すのかが、重要なポイントになります。
プラットフォーム側の責任
今回の訴訟では、投稿者本人だけでなく、動画共有プラットフォーム側の責任も問題になります。
特に、権利侵害の申告を受けた後、運営側が動画を削除すべきだったかどうかが重要な論点です。
削除義務の有無や対応の遅れについては、プロバイダ責任制限法との関係も含めて判断されることになります。
つまり、声そのものについて権利侵害が成立するかどうかとは別に、TikTok側が申告を受けた後に適切な対応を取ったかどうかも、判決を左右するポイントになります。
予想される裁判の着地点
原告側の主張が一部認められるケース
裁判所が音響分析の結果や、視聴者が津田氏本人の声だと受け取った反応を重視すれば、問題となった動画の削除を認める判断につながることが考えられます。
さらに、著名人の声を本人の許可なく利用する行為について、一定の法的評価を示すことも考えられます。
削除義務のみが認められるケース
一方で、声そのものについて独立した権利侵害までは認めず、権利侵害の申告を受けた後のプラットフォーム側の対応に問題があったと判断する余地もあります。
この場合、声の利用そのものよりも、運営側がどの時点で削除などの対応を取るべきだったのかが中心的な争点になります。
原告側の請求が認められないケース
反対に、声の類似性について権利侵害を認定するだけの証拠がないと裁判所が判断すれば、津田氏側の請求が退けられることになります。
問題となった声が一般的な男性の低音の範囲にとどまり、津田氏本人を模倣したものとは評価できないと判断される場合も同様です。
その場合、津田氏側が求めた動画の削除や損害賠償などの請求は認められないことになります。
クリエイター保護を求める社会的な動きや政府の方針は、今回の裁判を考えるうえで重要な背景となっています。
ただし、世論や政策の方向性だけで裁判所の判断が決まるわけではなく、最終的には具体的な証拠と法律に基づいて判断されます。
特に注目されるのが、音響分析による声の類似性と、視聴者が本人の声だと認識した事実がどのように評価されるかという点です。
また、TikTok側が権利侵害の申告を受けた後、どのような対応を取ったのかも重要なポイントになります。
判決では、生成AIで特定の人物の声を再現・利用する行為について、既存の法律をどのように適用するのかが示されることになります。
9月30日の判決が、AIによる声の利用と権利保護についてどのような判断を示すのかが注目されます。

